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福岡高等裁判所 昭和32年(ツ)5号 判決

上告人 吉田義一

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の本件上告理由の要旨は、本件物件は上告人の所有であるのに福岡地方検察庁小倉支部検察官は、本犯である窃盗犯人が実在しないに拘らず右物件を賍物であると断定し、これを被害者九州配電株式会社の盗難品と同一であるとの理由から同会社に還付したのは違法の処分であつて、これにより上告人は右物件の還付を受くべき権利を喪失しその所有権の回復を不能に帰せしめられた。かような検察官の処分は法の許容せざるところであり、従つて上告人は公権力の違法の行使によつて現実に損害を蒙つたものである。然るに、原判決は右検察官の違法処分を是認して上告人の請求を棄却したのは法の適用を誤つたものであるから破棄せられるべきものである、というのである。

しかしながら、たとえ本件物件が上告人の所有であつて、所論検察官が本件物件を賍物と認め判示九州配電株式会社を被害者として同会社に対しこれを還付した処分が違法であるとしても、このような処分によつて直ちに上告人の所有権が喪失し又はその回復が不能となるものではない。従つて上告人の請求するような本件物件の価格に相当する損害を生じたものとはいえない。原判決の判示中に、検察官の還付処分はそれ自体原告の所有権を侵害したものということができないとあるのは、措辞に不充分な点はあるが、それは上記のような損害を生ずる所有権の侵害はないという趣旨である。それ故原審が上告人の本訴請求を棄却したのは正当であり、論旨は理由がない。

よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次邸)

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